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特集コラム

薬学関連用語についての考察

2016年8月25日

ブログやコラムを通して発信を続けていると講演依頼が舞い込んでくることがあります。私の持ちネタは3つ、“薬歴の書き方”と“学術ネタ”、そして“勉強の方法”です。どれにするかは先方次第なのですが、かなりの確率で“薬歴の書き方”が選ばれています。私の知名度を上げているのは学術的なコラムのはずなのに、講演のニーズは薬歴にあるわけです。


薬歴の講演は、まずPOS(Problem Oriented System)の定義からはじめます。この概念は米国の医師によって考案され、その定義は「患者の持っている医療上の問題点に焦点を合わせ、その問題を持つ患者の最高の扱い方を目指して努力する一連の作業システムである」とされています。しかし、この“問題点”や“問題”といった言葉に引きずられると、問題がなかったときに薬歴が書けなくなってしまいます。


私たちはそれとは知らずに、患者の問題点を探してしまっている。ですが慢性疾患の患者で、毎回毎回問題があるようなら、それこそ問題なわけです。問題がない、そういったときには、今後の比較のためにも問題がなかったときの良い記録を残しておくことが大事になってきます。人間である以上、食欲や排尿・排便、そして睡眠、これらは必ず変化します。そして、こういった人間のQOLに直結するような副作用が出ていないかをチェックすることは、私たちの仕事において、優先度の高いもののはずです。


この問題は誤訳に起因しています。Problemを問題と訳してしまうから生じてしまうのです。そもそも日本にはない概念なのですから、プロブレムとそのまま使えばいい。そして、その意味は今回の服薬指導・服薬支援のタイトルやテーマぐらいの意味合いで捉えておけばいいと思います。


たとえば、投薬というと言葉。薬を投げるとはけしからんと言われる方がいますが、これはそうではありません。投薬の“投”という字は、「ダメかもしれないが良い結果を期待して」使われる言葉なのです。でも、悪い意味に見えてしまう。そう、漢字にはニオイがある。そのニオイを消すために、新しい概念ならば、カタカナのまま使用する。昨今、カタカナ語が流行っている理由は、別にカッコつけているわけではなく、ピタリと当てはまる日本語(漢語)がないためにあえてカタカナを使用しているのです。新しい概念をカタカナ語として吸収する。日本語って、なんて懐の深い言語なのでしょう。


次に、これも薬歴で使用するSOAPについて考えてみましょう。これも問題の構造は同じです。Sを主観的情報、Oを客観的情報、Aを評価、Pを計画なんて訳すから、どこに何を書いていいのか、皆目見当がつかなくなります。検査値を教えてもらえないから、書くことがないからといった理由で、Oに患者の情報が一切なく、薬の情報ばかりが書かれている。そのようなまったく意味のない記録を見かけることがあります。いったい何の客観的情報なのでしょう。Oには患者の情報が書かれなくてはいけません。そもそも主観と客観なんて、哲学の世界ではいまもってなお大きな問題です。


SはSのまま、OはOのまま、AもPもそのままでいいのです。そうではなくて、「SOAPで考える」という考え方の技術を学ぶことこそが肝心なのです。これは技術です。技術というものは身につけることにより、その人の能力を高めることができます。さらに言うなら、「技術というのは、個人の能力ではなく、みんなの能力を高めるもの」(@森博嗣)なのです。


最後に、薬剤師がよく使うであろう概念、コンプライアンスから服薬に関係する概念を考えてみたいと思います。時代はコンプライアンスではなくアドヒアランス、なんてことを言いたいのではありません。私たちがこれらの概念を思い浮かべ、そしてそれを使いこなせていないとき、それは「とにかく指示通り薬を飲んでほしい」「薬を積極的に飲むようになってほしい」というところに着地してしまいます。そしてその前提には、「医療者の指示通りに薬を飲む」があります。もしかしたら、その薬はその患者にとって不必要なものになっているかもしれないのに。


最近ではポリファーマシーという概念が登場し、コンプライアンスやアドヒアランスといった言葉によって思考停止状態に陥ることが少なくなってきたのかもしれません。では、ポリファーマシーという概念を中心に据えて、ただ薬の数を減らせばいいのでしょうか。これもそうではありません。薬の数を減らせば、その患者は幸せになるのでしょうか。それでは、集学的治療といった概念ではどうでしょうか。もうわけがわからなくなってきました。それは言葉だけで考えているからです。そういった概念に振り回されて、患者を診ていないからです。


新しい概念を学ぶことはいいことです。しかし、使いこなせないのならいっそ使わないのもひとつの手です。そして、注目してほしいことがあります。それは、概念そのものよりもその背景、そういった概念が求められるようになった背景です。そこにこそ薬剤師に求められていることが見え隠れしているからです。


 

有限会社アップル薬局 山本 雄一郎

山本 雄一郎(やまもと ゆういちろう)

1998年、熊本大学薬学部卒。三共株式会社にMRとして勤務後、2002年より有限会社アップル薬局に入社する。現在、薬歴をWeb上で公開するブログ『薬歴公開 byひのくにノ薬局薬剤師。』(毎週金曜日)などを執筆している。
執筆例:『薬局にソクラテスがやってきた』(日経DI Online)、『日経DIクイズ』(日経DI)
IMSジャパン 安心処方infoboxサーチ実践例監修

知っトク!おトク!豆知識

健康・医療分野におけるITC化 国民がメリットを感じられる今後の方向性とは
現在、医療情報のITC化は主官庁である厚労省と総務省で進められています。病院や薬局、そして介護も含む地域医療連携の全体をネットワーク化し、個人の健康・医療・介護分野の情報をパーソナルヘルスレコードとして本人が一元管理・活用できるようにします。ITC化された情報をスマホアプリで見ることができれば、利用者はどんな診断や投薬をされているかがわかります。また、本人自らが情報を持ち運ぶことにより、引っ越しなど地域を超えての活用や、複数診療科での活用、介護分野の多職種連携チームでの活用が可能となります。

今月号の目次
今日はなんの日?
  • 2016年9月9日
  • 救急の日
  • 厚生労働省が1982年に「9(きゅう)9(きゅう)」の語呂合わせから制定。救急医療関係者の意識向上と、国民の正しい理解を深めることが目的である。
  • 2016年9月9日
  • 骨盤臓器脱 克服の日
  • 尿失禁・骨盤臓器脱で悩む女性ゼロをめざすひまわり会により制定される。骨盤臓器脱の英語表記は「POP」と略され、逆転すると「909」と読めるため。
  • 2016年9月22日
  • フィットネスの日
  • 日本フィットネス協会の設立記念日であり、9月は厚労省が実施する「健康増進普及月間」でもあるため制定される。国民の健康体力づくり推進が目的である。
  • 2016年9月24日
  • 歯科技工士記念日
  • 1955年設立の日本歯科技工士会により、2005年9月に50周年を記念して制定されたふたつの記念日のひとつ。もうひとつは10月8日の「入れ歯感謝デー」。

薬剤師の地域別時給[東日本]
地 域 東京23区 東京都下 神奈川県 埼玉県 千葉県 茨城県 群馬県 栃木県 静岡県 山梨県
平均値 ¥2,302 ¥2,203 ¥2,126 ¥2,229 ¥2,400 ¥2,508 ¥2,309 ¥2,255 ¥2,051 -
薬剤師の地域別時給[西日本]
地 域 滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県 岡山県 愛媛県 福岡県
平均値 ¥2,249 ¥2,111 ¥2,114 ¥2,020 ¥2,111 ¥2,145 ¥1,960 ¥2,771 ¥1,913
(2015年2月~2016年1月)
AiDEM 株式会社アイデム 人と仕事研究所調べ

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